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そして次の日。
岬くんは元気に登校してきた。


「おはよう。昨日はありがとう」

私の姿を見つけた岬くんが挨拶してきた。
昨日の事がお互いばつが悪いと感じてしまったのか、会話が続かない。
お互いが次の言葉を捜していた一瞬・・・。

「おはよー。岬。もう大丈夫なのか?」

クラスの男友達2人が腕を組むようにして、連れて行ってしまった。

「またあづみに何か言われたのか?」

昨日私の事をからかってきた2人。
相変わらず、からかい口調で言ってるのが聞こえてくる。

岬くんは、ちらりと私のほうを見た。
目で、大丈夫だよ。と言ってるみたいに感じた。


「くす。そんなこと言っちゃかわいそうだよ」

そう言いながら笑っていた。







この日は、朝の挨拶以外、岬くんと話す機会がなく、
放課後になってしまった。

休み時間になると、
クラスの友達が入れ替わり立ち代わり、岬くんと話していた。
別にその輪に加わってもいいんだけど、なんか気まずい。

岬くんが私のこと避けてるんじゃないよね?
なんて卑屈なことまで考えてしまった。

はあ~、かえろっと。





校舎を出て、校門に向かってる途中、「あづみちゃん」と呼ぶ声を聞く。
岬くんが駆け寄ってきた。

息を切らしてる。
いつもならこれくらいだと息一つ乱れないはずなのに・・・。
やっぱり、病み上がりなんだなぁ。

帰ってく私の姿を窓から見て、慌てて追いかけてきたそうだ。

「はい。これ」

そう言って透明なセロファン袋に入ったクッキーを差し出してきた。
口をオレンジのリボンで縛ってある。

「口止め料に・・・」

冗談ぽい口調で言い微笑む。



「受け取れない。口止め料なんてなくても私、誰にも話さないよ」

「そっか、そうだよね」そういった後、
「出来れば、ついでに忘れてくれるとありがたいんだけど・・・」
と呟いた。

忘れるなんて無理に決まってる。

「はい。昨日のお礼。それだったら受け取ってくれるかな?
 最初っからそのつもりだったし」

「ありがと。岬くんが作ったんだよね?いつ作ったの?」

昨日会った時は熱で魘されていたのに・・・。

「うん。朝。昨日、あれだけ寝てたから、朝早く目が覚めて・・・。
 サッカーしたくてもさすがにまずいなぁって。
 だから、クッキー作りしてみました」

ひとつを食べてみる。

「おいしい」

岬くんはそのあとの言葉を待って、身構えた感じになる。

「え、それだけ?」

「え、なに?なに言われると思ったの?」

「てっきりからかわれるのかと。『お菓子作り、岬くんに似合ってるね』とかさ・・・」

「なによそれー・・・。やっぱり口止め料貰うから。 
 口止め料、シュークリームがいいかな」

「シュークリームかぁ。難しいんだよね」

そう言うと考え込んでしまった。

「ごめん。冗談よ」

「うん。でも・・・。
 上手に焼けたら持ってくるよ。あ、学校に持ってくるとつぶれそう」


クッキーがあまりにおいしくて、
岬くんの作ったほかのお菓子を食べたいと思ってしまった。

どさくさにまぎれてずうずうしくも言ってしまった。



「おーい、岬、サッカーやらないか?」

昨日と今朝、私の事をからかっきたクラス仲間が声を掛けてくる。

「うん。ちょっと待って・・・」

「だめよ。サッカーはまだ無理よ」

私はつい叫んでしまった。

「そっか、そうだね。 ごめん。今日はよしておく」

前半は私に言い、後半部分は誘ってきた友達に向けたもの。

「そうだな。わりぃ。病み上がりだものな・・・」

そういって去っていくんだけど、
『病み上がりだものな』がとってつけたように聞こえてしまった。

私たち2人に気を使ってるみたいに感じてしまった。
きっと岬くんが何か言ってくれたんだ。
そんな感じがする。


「さてっと、よかったら、一緒にシュークリーム作らない?
 どうせ今日はサッカーできなくて暇だし・・・」

そして、岬くんには、こう誘われてしまった。

え、ええっ、岬くんと一緒にシュークリーム作り?

いいかも・・・。



「いいの?私、料理苦手だよ」

「うん。家庭科の授業で知ってるよ」

「・・・」

「このお礼もしたいんだ」

そういって鞄からノートを取り出した。

そう、このノートは昨日学校で岬くんに渡そうと思っていたもの。
昨日、お見舞いに行った時、岬くんの部屋の机の上に置いておいた。


「こんなに要点まとめるの大変だったでしょ?」

「そんなでもない。フランス語は得意だから。それに復習にもなるし・・・」

「そっか、ありがと。とても助かるよ」

なんか、自然に話せてるよね?私たち。
昨日のバツの悪い思いが嘘のようだよね?

普通に話して、普通に2人で並んで歩いてる。

このまま2人で、シュークリームの材料を買いに行くことになった。




「でも、あづみちゃんに、風邪移ってなくってよかった。
 今日、風邪であづみちゃん学校休んでたらどうしようかと・・・」

「丈夫だけが取り柄ですから」冗談ぽくちょっと笑いながら言う私。

「そうなんだ」と答えながら笑う岬くん。

そして、2人で笑いあった。

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いいのかなぁ?熱出してる男の子の部屋に勝手にお邪魔して・・・。

岬くんの住んでるアパルトマンのある通りに差し掛かった時、岬くんのお父さんと会った。
そう、私は、お見舞いに行く途中で・・・。

挨拶すると、岬くんのお父さんも覚えていてくれて・・・。
出かける途中だそうで・・・。

なんと鍵を預かってしまった。

チャイム鳴らしたほうがいいのかなぁ?
でもぐっすり寝てるって言ってたし・・・。

いいのかなぁ?勝手に入って・・・。
そう思いながら玄関のドアを開錠する。


岬くんの部屋ってここだよね?
遠慮がちにノックをしてドアを開ける。

あれ?

一瞬いないのかと思ってしまった。
蒲団に潜って寝てる。

蒲団の膨らみ具合から察するに、丸まってるみたいだ。

テレビだったか何かで聞いたことがある。

人間は不安になるとまあるくなるんだって。
膝を抱えて丸まってる姿は胎児の格好で・・・。

だからその格好をすると安心できるのだそうた。

岬くんはなにが不安なのかな?

やっぱりフランスと日本だと環境も違うし、言葉通じないと不安なんだよね?
フランス語の授業も戸惑ってるみたいだし・・・。
他の科目はよくできるのに。
運動神経もよくって、体育の時間だって・・・。

新しい学校なんだもん。
不安で当然だよね?

それに私が・・・。

「岬くん・・・」

思わず呟いていた。

その声に反応したのか、潜ってることに息苦しくなったのか、
「ううん」と声をあげ顔を覗かせた。

うわぁ、綺麗な寝顔。まじまじと見つめてしまう。

そのうち、寝てる岬くんの部屋にいるのが息苦しく感じてしまった。

「帰るなら鍵、ポストに入れておいてくれればいい」って
お父さん言ってたし、
 
帰ろっかな?

そう思い部屋を出ようと身を翻した時だった。

「待って、行かないで」

岬くんの声を聞いた。
泣きながら必死に呼び止める声。

えっ? びっくりして振り返る。

「かあさん」

そっかそうだね。寝言よね。

なんかここにいるのが凄く気まずい。
岬くんもこんなとこ見られたくないよね?・・・。

何も見てない。聞いてない。
帰ろ。このまま帰ろ。

「お願い。傍にいて」

でも、岬くんの声を無視できなかった。

泣き続ける彼。

どうしてあげればいいんだろ?



いつもだったら、泣いてる子みると
「しっかりしなさいよ」と怒鳴りつけるところなんだけど、
そんな雰囲気ではない。
こんな状態の彼にそんなこと言えないよ。

彼の手が空を切る。

思わず私は、その手を握り締めていた。

「大丈夫だから。傍にいるから。ここにいるから」

そう声を掛けてしまった。

私の声に安心したような顔をした。



彼の瞼が開いていく。

でもまだ夢と現実の区別が付いていないような状態みたいだ。

「母さんって呼んでも止まってくれなくって、やっと追いついて手を繋いだのに、
顔を見ると黒い影で・・・。なんであんな夢たんだろう?」

私に話してるのではなく、独り言を呟いたようだ。
目尻に溜まった涙が零れ落ちる。




しばらくして、岬くんはようやく私のことを認識した。

「えっ、なんで君がここにいるの?」

驚き、焦ったトーンで聞いてきた。

焦っているのはこっちもおなじ。

「あの・・・。えっと・・・」

岬くんの気まずい思いが伝わってきて、しどろもどろになってしまう。

見られたくなかった彼の一部分を、私は見てしまったんだよね?
謝ったほうがいいかな?
でも、それだとかえって失礼かしら?

「ずっと手を握っててくれたの?傍にいてくれたの?」

「ええっと、ああっ・・・」

手を握ったままだった。
慌ててその手を放す。

「ありがと。お見舞いに来てくれて」

「ええと、ほら、私、クラス委員長だから代表で・・・」

岬くんはいつもの微笑を浮かべる。
それがぎこちなく見えるのは、熱のせいだよね?


「でも、よかった」

「うん?」

岬くんが腑に落ちない顔で見てる。

「あはは、なんでもない。こっちのこと・・・」

あちゃ、つい口に出てしまった。
病気で寝てる人によかったはないよね・・・。

「ねぇ、岬くん・・・。学校楽しい?」

「えっ?」

「嫌なこととかないよね?」

「何で、そんなこと聞くのかなぁ?」

「学校に馴染めなくなって、休んだんだったらどうしようかと思ってて・・・」

「そんな心配してたの?」

「それに・・・」


『岬が学校休んだのは、あづみが噛み付いてばかりいるからじゃないの~?』
『そうそう、みんなは慣れてるけど、あんなきつい言い方されたらきたくなくなるよ』

『なんですって・・・』

『ほら、その言い方』

そうからかわれた。

からかってきた男の子たちは『冗談だよ』と言ったんだけど、
なんか、それが気になってしまって・・・。

だからお見舞いに来た。
お見舞いというよりは様子見だよね・・・。


それを岬くんに話すと、

「あはは・・・」

なんと笑われてしまった。

そして、

「それってちょっと酷いかも。
 あっ、そっか、それで、さっき『よかった』って言ってたんだ?
 大丈夫だよ。別に、そんなこと思ってないもの」

「よかった」

「うん。余計な心配だよ」


今の『よかった』はね、さっきまで泣いてた岬くんが笑ってくれたからだよ。

岬くんが咳き込む。
喉が痛いのに話したせいかも・・・。
直ぐに治まったけど・・・。
枕元に置いてあった、ペットボトルのお茶を、コップについで渡す。

「ありがと」
上半身を起こして受け取る。


岬くんの頭の下にあった氷枕が気になった。
触ってみる。氷溶けてるね。

氷枕を手に部屋を出ようとすると、岬くんが呼び止めた。

「氷、入れてこようかと思って・・・」

「いいよ。悪いよ」

こういう時まで遠慮するんだね。

「こういう時は誰かに甘えていいの。こんな時まで遠慮しないで」

「うん。そうだね。ごめん」





「頭あげて」

氷を足した枕を彼の頭の下に敷く。

「気持ちいい」

ほっとした彼の顔を、濡らしたタオル地のハンカチで拭く。

「うあぁ、なに?」

「泣いた顔、お父さんに見られたくないんでしょ?」

「いい。自分でやる」

そう言って私の手からハンカチを奪い取ってしまった。

「あれ?これってあづみちゃんの?」

「どれ使っていいか分からなかったから」

「そっか、汚しちゃってごめん。洗って返すよ」

「ううん。いいよ」

彼の手からハンカチを奪い返す。

「こんな時まで気を使わないでよ。何かして欲しいことがあったら言って」

「うん。分かった。じゃあさ・・・」

やはり遠慮がちな岬くん。でも、何かを頼もうとしてるようだ。

「肌掛け出してくれないかな?そこの押し入れから・・・」

岬くんが震えているのに気付いた。

「寒いの?」

頷く岬くん。

「もしかして、ずっと我慢してたの?早く言ってくれればよかったのに・・・」

そう言いながら押し入れから蒲団を出す。

「ごめんね」と言う岬くん。

「お父さんが帰ってくるまで、もう一眠りした方がいいよ」

そう言いながら蒲団を掛ける。

岬くんの手が私の手を掴む。

「こんな冷たくなっちゃって・・・。ごめんね」

今日、何度、岬くんの『ごめんね』を聞いただろう?

病気で辛い時は気にしなくていいのに・・・。

でも岬くんはその手を放そうとはしなかった。
気を使ってるつもりでも、心が付いていけてないんだ。

だって「帰らなくていいの?」とか、
「帰ったほうがいいよ」とかは言ってくれてない。

そう気付いてしまった。

うふ。
『私がいたらお邪魔でしょうから、帰るね』と言おうとしてたんだけどなぁ。

くすくす。なんか可笑しいの。

しばらくすると寝息を立て始めた。
さっき悪夢?見てた時とは違う穏やかな寝顔をしていた。

今日はこのまま帰るからいいけど、
風邪が治って岬くんが学校にきたら、どんな顔すればいいんだろ?

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あれから数年。
フランスに渡り日本人学校に通いだした。
日本とフランス、環境も習慣も違う。
だからか、疲れが出たのかもしれない。
風邪で高熱を出した。


『母さん、置いてかないで・・・。
 待って、待ってよ。母さん』

夢の中で必死に母親を呼ぶ。
泣きながら、必死に追いかける。

小さい頃、部屋に1人取り残されて、不安になって泣き出したのとは違う。

今度は置いて行かれるのが辛いんだ。
応えてくれないのが辛いんだ。

なんでこんな夢みてるんだろう?

きっとフランスに行く前に、母さんに会いに行ったからだ。

一目見て会わずにフランスに行くと決めたのは自分なのに・・・。

あの時、母さんではなく父さんの手を取ったのは自分自身なのに・・・。

なのになんでこんな夢・・・。

『お願いだからどこにもいかないで。傍にいて』

そう泣き叫んでいた。





そんな中、優しい声を聞いた。

『大丈夫だよ。 ここにいるから』

温かい声、そして温もりを感じる。


その声で目を覚ます。

でもまだ夢うつつで・・・。



夢の中で、僕は母さんの姿を見つけた。

『母さん、母さん』

と何度も呼ぶんだけど、母さんは振り返らない。振り返ってくれない。

慌てて走って追いかけるんだけど、なかなか追いつかない。

母さんは普通に歩いているように見えるのに・・・。

やっと追いつき手を繋ぐ。


でも、僕を見た母さんの顔は・・・。



黒い影で・・・。

驚いて立ち止まる僕の手を放し、そのまま行ってしまう。

僕はまた追いかける。


なぜかそれを繰り返していた。

そんな夢を見ていた。

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それはテレビや本などでよく見掛ける場面。
病気などで熱に浮かされた子どもが、
おかあさんとか、ママとか呼んで母親を求めるシーン。


ある日の夜テレビを見ているとそんな場面に遭遇した。

その頃の僕はまだ小学校の1、2年生だったと思う。

風邪で寝込んでる小さな子ども。
僕とおなじくらいかな?
高熱に浮かされながら目を覚ます。
母親が傍にいない。
そんな不安からか「ママ」と必死に呼ぶ声が部屋に響く。


「太郎、別の見るか?」

一緒にテレビを見ていた父さんは、気を使ってかチャンネルを変えようとした。
「回さないで。見てるの」

いつもならテレビ番組にこんなに執着はしない。

でも何故か気になった。



あの時は気付かなかったけど、僕に気を使ったのではなく、
きっと、父さんが見たくなかったのかもしれない。



テレビの中の子はママを求めて泣いていた。
そして買い物から戻って来たママに甘えていた。


なぜ不安になると求めるのはお母さんなんだろう?
僕はどうするのかな?

僕はきっと父さんを求めるんだろうな?
いない母さん呼んでもしかたがないもの。






それからしばらくして、風邪を引いた。
朝一で父さんに病院に連れて行かれた。

熱が高く布団で横になっている。
枕元にはスポーツドリンクが、ちゃぶ台にはおかゆと薬とポットが置かれてる。


「ほんとに大丈夫か?」

心配して家にいるという父さんに、
「大丈夫だから」と言い張る。

「だって、後はただ寝てるだけだもん」

「だけどなぁ・・・。飯一人で食えるのか?」

「うん。おかゆつくってくれたんでしょ。後は1人で大丈夫だよ」

そう、いつものこと。
僕は一人で平気。


そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、
後ろめたさを残したように父さんは出かけていった。

薬が効いたのか、熱のせいか直ぐ眠りに落ちた。





だるいよ。辛いよ。

目を覚ますと、部屋に1人っきり。


父さん?


そっか、いないんだった。

6畳1間のけして広いとはいえないアパート。


学校から帰ってくると家に1人きりなことが多いのに、
なぜか、今は取り残された気分。

そこに一人で寝ているのが淋しく感じた。
なぜかとても広く感じてしまった。


耳を澄まして物音を拾おうとする。

でも、なぜか静かで・・・。
夜の静けさとはまた違って・・・。


なぜかわからないけど、
この世界に1人っきりにされたような不安感が襲ってきた。

「おかあさん。助けて」

気付くとそう叫んで泣いていた。

お母さん、お母さん、お母さん。
辛いよ。怖いよ。


あれ?なんで?

いないお母さん求めても仕方ないって思っていたのに・・・。




あんなテレビ見たからだ・・・。


でも、高熱に浮かされると不安でお母さん求めるものなんだと知った。
そう、テレビの中の子の、母親を求める気持ちがわかってしまったんだ。


そして、お母さんを求められるその子が、
甘えてるテレビの中の子がとてもうらやましく感じてしまったんだ。

そう思ったらどんどん涙がこぼれて・・・。


父さんが今ここにいなくてよかった。

僕が「おかあさん」って呼んだ声聞いたら、凄く困るよね?
やっぱり傷つくよね?

こんなこと考えたらますます涙が溢れてきて・・・。






玄関のドアが開く音がした。

父さんが帰ってきた。

やはり心配になり、直ぐに切り上げて帰ってきたそうだ。

「太郎?大丈夫か?」

泣きじゃくる僕を見て驚いてる父さん。

「父さん。父さん・・・」

上半身を起こす。

抱きつこうと必死に両手を伸ばす。
そんな僕を抱きしめてくれた。

「やっぱり、傍にいるべきだったな。すまんな」

そんなすまなそうな父さん見て、ますます自己嫌悪に陥る。

不安やほっとした気持ちもあったけど、
でも、それだけではなく自己嫌悪の涙が溢れて止まらない。

そんな幼い子供時代があった。

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キラキラキラ。
太陽の光を浴びて輝く砂つぶ。
サラサラサラ。
砂が流れる音。
砂の流れ行く先は・・・。


ベッドに仰向けになりほおづえを付いている。

枕元に置いてある砂時計を、片手を伸ばしてひっくり返す。


『ねぇ翼くん、僕はどうすればいいと思う?』

その砂時計を見つめながら、語りかけるように呟く。


『先日ね、片桐さんという日本サッカー協会の人がきたよ。
  
 Jrユース代表へ要請されたんだ。

 みんなと会うのも一緒にサッカーするのも3年ぶりで・・・。

 僕はみんなのプレーに、そして特に翼くん・・・ 。
 
 君についていけるだろうか?』

砂が落ちるのを見ながら呟いた独り言。

そう。この砂時計は翼くんに貰った物。








まだ小学生だった頃、翼くんちに遊びに行ったことがあった。

あの頃の僕は自分の部屋を持ったことがなくって、
持てるとも思ってなくって・・・。
だから翼くんの部屋が物珍しく感じてしまった。
 
子どもながらに失礼だと思いながらも、キョロキョロと部屋を見回してしまった。



そして机の上に置かれていた砂時計。
それに視線を奪われていた。


「岬くん、こういうの好きなの?」

「えっ?」

「よかった」

翼くんはそう言って、砂時計をもうひとつ引き出しから出してきた。
机の上にある砂時計の隣に並べる。

机の上にあったのは水色の砂粒で、もうひとつのはピンクの砂粒。

「お父さんがお土産に買って来てくれたんだ。
 ひとつは、大好きな友達にあげなさいって、だからこれ岬くんに・・・」

翼くん・・・。
それって、お父さんの言う大好きの意味とは違うと思うんだけど・・・。

でも、そう言ってくれるのはうれしい。とてもうれしいよ。

「あ、青のほうがいいかな?」

「ううん。ありがと」

ピンクの砂粒、水色の砂粒・・・。
おそろいの砂時計。
おそろいのもの分け合うだけで、一緒にいるようなそんな風に感じてしまう。


砂時計をひっくり返す。
砂が流れるのを見つめてる。

隣で翼くんも一緒になって見つめてる。

「岬くん?」

翼くんは、なんでそんなに夢中で眺めてるのか疑問に感じたらしい。


「砂時計ってさ不思議だよね?」

「不思議?何で?」

「だってさ、同じ砂が回ってるんだもん。なんか不思議。
 ひっくり返して見える風景は違うのにさ、落ちてる砂は同じなんだよ」

「???」

きょとんとした翼くんの顔。

「そういうこと考える岬くんのほうが不思議」

翼くんは意味がわからないって顔してた。
僕も、言いたいことうまく伝えられなかったのは事実で・・・。







翼くんとの思い出に浸ってるうちに、砂全部落ちちゃった。
僕はまた砂時計をひっくり返す。









この大会が終ったら南葛市から引っ越す、そうみんなに告白した夜、
なんでか眠れなかった。

試合で疲れているはずなのに・・・。

みんなが寝静まった後、畳の上に座りどこを眺めるでもなく、
窓の外を見てた。
月明かりが眩しい。

「岬くん、眠れないの?」

ベッドを抜け出す物音、人影。

「翼くん」

「実は俺もなんだ」

僕の隣に腰掛ける。
それから僕たちは膝を突き合わせて、いろいろなことを話した。

「前の学校はさ、 野球とか、テレビゲームが人気だったんだ。
 サッカーやってる人ほとんどいなくて・・・。
 だから、岬くんと一緒にボール蹴りながら登校できるの凄く楽しい」

「僕もだよ」

「前の学校ではさ、一人でボールを蹴って通ってた」

一人で、ボール蹴りながら学校に行く翼くん。
きっと周りから浮いていたんだろうなぁ?

くすくす。

想像したら笑えてしまった。

「うん。わかるよ。そういう時、僕もあったから」

「やっぱり」

そう言って2人で笑った。

その笑い声が、予想以上に響いてしまった。

『うう~ん・・・』

誰かの寝返りを打つ声・・・。

誰も起きませんように。

今は、翼くんと2人っきりの時間を過ごしたいんだ。


「しーっ、」

2人で人差し指を立てて同じポーズをする。




「後はベッドの中で話そう」

どちらからともなく言い出す。
ひとつのベッドに2人で横になる。


「岬くんと一緒に試合に出ると、いつもわくわくするんだ。
 もう一人自分がいるみたいで・・・。
 たとえばね、ゴール前で、ここに飛び込みたい。
 そう思うところにぴったり岬くんのパスがくるんだ。
 自分が出したパスのように・・・」
 

「翼くん、僕もだよ。
 自分だったらここにパスして、ここでシュート打ちたい。
 そう思うところに必ず、翼くんがいるんだ」

2人が試合中に抱いてるイメージがほんとにシンクロする。
色々な仲間とサッカーしてきたけど、こんなことって本当に初めてで・・・。

僕のほうこそ、一緒にサッカーできるの楽しい。
わくわくするんだ。

ずっと一緒にサッカーしてたい。
でも、この大会終ったら僕たちは離れ離れになる・・・。
そんなことを考えると、次の言葉が出てこない。


でも、翼くんはそんな僕の思いには気づいてないみたいだ。

「岬くん、この大会が終っても、また一緒にサッカーしようね」

わるいけど、それには答えられない。
思わず黙り込んでしまう。

「前に話したでしょ、一緒に代表で出ようねって。
 代表で、俺の隣にいるのは、岬くんなんだよ。
 ちゃんと、それが見えるんだ。
 ずっと一緒にサッカーして行こうね」


なんて答えていいかわからなかった。
涙がこぼれそうになった。

だから、ずるいけど寝たふりをした。







砂時計の向うに浮かんだ、小学生時代・・・。




あの時は幼くってうまくいえなかったけど、

人間ってこの砂粒で、砂時計の入れ物は地球なんだ。

隣にいた砂はひっくり返せば変わる。

そう、それだけの出会いがあるんだよ。

でも、行き先が同じなら、たどり着く場所は同じ。

だから隣にいた砂とまた隣同士になることもある。

僕と翼くんも砂時計の砂で・・・。



そして僕の中では、不確か過ぎて伝えられなかったこと。

引っ越してばかりの僕。
ここ南葛にもいつまでもいられるわけもなく・・・。



またいつか出会える。

僕はずっと翼くんの隣でサッカーして行きたい。

『いつかまた会えるよね?』

そう、口にするのが怖かったんだ。

今までがそうだったように、口先だけになってしまいそうだから。
そんな不確かな約束はしたくなかったから。


『同じ場所を目指していれば、僕と翼くんはまた隣同士になれるよね?
また会えるよね?この砂時計の砂粒のように』

ほんとはこう伝えたかった。




翼くんは、また会えるのが当たり前のように、ほんの少しの疑いも持たないで、

『今度は代表で会おうね』って言ってくれた。
ボールの寄せ書きに書いてくれた。

たとえ離れていても、一緒に同じ夢を見ていこうと・・・。






その無邪気さがうらやましいと思うと同時に、
どれだけ救われたかわからない。

だから、キミとまたコンビを組みたいんだ。


でも今の実力じゃ・・・。



『岬くんなら大丈夫だよ』

翼くんの声が聞こえた気がした。


ありがと、翼くん。
でも、自分の実力を知りたいんだ。
大丈夫かどうか、試してみたいんだ。

翼くんの未来図には、キミの隣を一緒になって走る僕がちゃんといる。
そう言ってくれたキミにきちんと応えたいんだ。


そのためには・・・。

代表ユニフォームとはちまきを手に握り締め、
僕はある場所を目指す。


〖パルク・デ・プラス〗

フランスJrユースの練習場所へと・・・。


そう、翼くんの隣に戻るために・・・。

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