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ここから 2-② 岬編 ~宵闇の彼方へ~ 

逃げてるだけか 参ったなぁ。
痛いとこ突かれたかも。
あづみちゃんの言うとおりだ・・・。


でもなんでだろ?

~~「私は守ってくれる強い人がいい」~~

偶然聞いた言葉。
あの時はなんとも思わなかった。
そしてそのまま忘れていたのに・・・。

そのまま忘れていたというのは、ちょっと違う。
無意識の底にはあったんだと思う。
あづみちゃんの前では強くいたいって、そう思っている自分がいたから・・・。

だけど、ここ数日間なぜかやたらと思い出しちゃって・・・。
今頃になって何故思い出したんだろう?




~~『サッカーしてる岬くんってかっこよくって好き』~~

これ言われたのも、中学生になったばかりの頃だったよね。
あづみちゃん、友達の乗りで、いつものからかう感じで言ってきて・・・。

なんで、あのタイミングで甦ったんだろう?
頭の中に聞こえて来て・・・。 


『あづみちゃん、サッカーしてる僕が好きって言ってたもんね』
どうして、こんなセリフがでてきたんだろ?

まずかったよなぁ。
せっかく心配して言ってくれたのに・・・。


八つ当たりだ・・・。
はあ~、せっかく会いにきてくれたのに追い返してしまった。
うまくいってないからって、八つ当たりなんて最低だよ・・・。



岬は立上がりボールの入ったカゴをゴール前まで引きずった。

ボールを手にする。
PKの位置にセットする。
左足でゴールに蹴り込む。
それを繰り返す。
何度も何度も。


カゴの中のボールが無くなると拾い集め、
今度は右足で何度も何度も蹴り込む。


オーバーワークなのはわかってる。
明らかに芝崎先生に言われたトレーニング以上のことをしてる。

でもおさえられない。

今は思いっ切りボールを蹴りたい。

カゴの中のボールが空になっては拾い集めて続ける。


次は人型の壁を使わずフリーキック。
ただただ、ボールを蹴る感触を味わいたい。

そしてドリブルからのシュート。

コースの正確性、絶妙なコントロール、
そんなものも今はいい。必要ない。
思い切り蹴り込む。

何度も何度も・・・。

ただただ、思いっきりサッカーがしたい。

色々な辛い思いをボールに乗せて、吹っ切るために・・・。

ボールと一緒に、辛い思いが飛んでいけばいい。








ベンチの周りにはペットボトルが数個転がっていた。

ゴールの中には沢山の蹴りこまれたボール。
グラウンド内にボールが散乱していた。



「岬くん岬くん」

宵闇の中に横たわる人影。揺り起こす人。

覚醒する意識の中で呼び起こす声を聞く。

う~ん、誰? 
あづみちゃん?


「あれ、なんだ後藤さんか?・・・」
 
岬を起こしていたのは彼の担当ナースだった。

「よかった気が付いた。
 で、私を誰と間違えたのかしら?」

ぼやっとした焦点の合わない目で見る。

「まあそれはいいんだけど・・・。大丈夫?」


「あれ僕・・・なんで?」

まだ頭が覚醒しきれてなく、置かれてる状況が一瞬理解できなかった。

「なんでじゃないわよ。
 こんな時間になるのに部屋にいないんだもの。
 探したらグラウンドに倒れているし・・・。」

「すいません。心配掛けて」


両脚が痛い。
熱を持っているのがわかる。

「ずっとボール蹴ってたの?」

立ち上がろうとするも、うまく立てずよろけてしまう。

後藤ナースに支えられ地面に座らされる。

「座ってなさい。 左脚だけでなく右脚も痛むんでしょ?
 今、車椅子とってくるから」


そんな訳で車椅子に乗せられてしまった。



「ところで、倒れるまでボール蹴るって、何考えてるのよ。
 こうなること、分かってなかった訳じゃないよね?」

と怒られてしまった。

「何でって言われましても・・・」

どうしても衝動が抑えられなかった・・・。




「まあいいか。なんかスッキリした顔してるから」


「えっ?」

「昼間までと全然顔つき違うもの。ここの所ずっと難しい顔していたでしょう?
 辛くて辛くて仕方がないって顔してたわよ」

「そうですか?」

「それに怒られるイベントはまだ残ってるんだし。
 私にまで怒られたくないでしょうから」

といたずらぽく笑う後藤ナース。

はあ~、そうなんだよね。
怒られるイベント・・・。


「芝崎先生、凄く怒るよね?」

「そうでしょうね」

「後藤さ~ん、なんとかして下さいよ。
 僕、芝崎先生に怒られるの苦手・・・」

くすくす。

それを聞いた後藤は笑い出した。

でも、この人のこういう気さくなところが落ち着く。

後藤は恰幅のよいベテランのナースで、
母親ってこんなものなのかな?
なんて雰囲気を持った人。

なぜか、話しにくいことでも話せてしまえる。


「くすくす、あなたがWユースの決勝に飛び出して行ったこと思い出しちゃって・・・」

「だって、あれは・・・」


「あなたからサッカー奪いたくない、そう思ってるの先生自身よ。
 芝崎先生、岬太郎選手のファンなんだから」

「そうなんですよね。だから怒られるのが苦手なんです。
 とても心配してくれてるのわかるようになってしまったから」


「そっか、だったら覚悟決めて怒られなさいな」

中庭を抜けて病棟へとたどり着く。
待合室の明かりは落とされ非常灯だけがともっている。

非常灯の薄明かりが、岬の横顔を照らしている。
痛みのためか青白くなってる岬の顔色が、ますます白く見える。





「芝崎先生って、
 ワールドユースの決勝に僕がに出るのを止められなかったこと、
 きっと後悔してるよね?」

「どうなんでしょうね?」

「後藤さんは?」

「え、私?そうねぇ・・・。
 全く後悔しなかったと言えば嘘になるけど、 
 でもまあ、私は、
 『あなたの人生なんだから、自分の決めたとおりにすればいい』 
 って思ってたから」


病室のベッドの上に足を投げ出す格好で座らされた。



「僕の周りには・・・」

視線を落とし俯く。


「あの時、僕の強行出場を止められなかった事を後悔してる人たちがいて・・・
 ここで僕がサッカーから逃げたら、諦めたらきっとその人達は・・・」

顔を上げると、決心した力強い思いで話し出す。


「後藤さん、僕、ほんとは何度もやめたいってそればっかり考えていて、
 何をどうしていいかわからなくなってたんです。
 でも・・・、納得するまでがんばる。逃げちゃいけないんだなって」

「そう。よかったじゃない、結論出て・・・。
 でもそれ伝えたい相手は私じゃないでしょ。
 伝えたいと思ってる人にちゃんと伝えること」


「・・・」

「ところで、夕食はちゃんと食べなさい。
 無理をしても食べておいたほうがいいわよ・・・」

「そうですね」

伝えたい人にちゃんと伝えるか・・・。




そして、治療と共に怒られるイベントがやってきた。


「まったく、何であんな馬鹿な真似したのかね?
 こんな無茶して・・・。サッカーできなくなってもいいのか?」

くどくど、色々なことを言われる。

注射をされ、両足には包帯が巻かれ、腕には点滴をされる。

「せめて、左脚が痛みだした時点でやめると言う気にならなかったのかね?
 痛い左脚庇うから、右脚までおかしくなるんだ。
 これだけで済んでよかったと思いなさい」


「う~、頭がガンガンする」

「それはそうだろうね。あんなところで寝るから。
 グラウンドの寝心地はよかったかな?」
 
そうじゃなくて、芝崎先生の怒鳴り声が頭に響く。
 
「脚の炎症も含め、熱出してもおかしくない状態だからね」

あれ?本当に頭が痛い。

先ほど渡された体温計を先生に渡す。

「38.3℃ もうちょっと上がるかもね」

確かに、頭がボーっとしてきた。


「とりあえず、悩み事は吹っ切れたみたいだね。まあ、今日は大目に見よう」
  

僕って、ここのところ毎日のように、
みんなに悩んでるの解る顔してたんだ・・・。

はあ~、だめだな。


「でも、悩み事吹っ切るために、毎回こんなことされたら責任もてないよ」


どうやら点滴の中には、睡眠薬も入ってたらしい。
眠りの世界へ吸い込まれそう。

「はい。すいませんでした」
こう返事するのがやっとだった。

「ここしばらく絶対安静」

その一言を残し先生は部屋を出て行った。

あづみちゃん、ちゃんと帰ったかな?
ごめん、今日は電話できないや。

そんなことを考えながら、眠りの中へ引きずりこまれた。
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