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寄り道

この日のリハビリメニューは終了。
でも、これだけでは足りない気がする。

リハビリを開始直後に、メニュー以上の事をしたら、
「無理しすぎだ。余計治りが遅くなるぞ」
と怒られてしまった。



リハビリ室を出て、病室に戻る。
ベッドに腰掛けサイドテーブルの本数冊を手に取る。
いつものように中庭で読もう。
今まで読んでた本、読み終わったし、次はどれを読もうかな?


本の中には、一冊のノートが混じっている。
ぱらぱらと捲っていく。

一番最後のページ。

これだったんだ。

思わず笑みが零れる。




頭は回想へと向かう。

いつになったらサッカーができるようになるんだろう?

ここ、富士スポーツ医学研究所は、リハビリに定評あるだけあって、
各方面での著名人も多いらしい。
だから、僕の入院してる病棟の病室は個室。
プライベートは確保されるものの、病室が無機質なのは変わらないわけで・・・。

『またサッカーできるようになるのだろうか?』
なんて考え、めげているのは、きっとこの無機質な病室にいるからだ。

ボール蹴ることや走ることは禁止されていても、
歩くことはOKなわけで・・・。

中庭でも散歩してこよう。
そう思い部屋から出て行こうとすると、
ドアがノックされた。

「どうぞ」と声を掛ける。

開かれたドアの向うに立っていたのは・・・。


「三杉くん・・・」
 
「やあ、どうだい?調子は?」

「なんでここにそんな格好でいるの?お見舞いに来た訳じゃなさそうだね?」

三杉くんは白衣を着ていた。

「取り敢えずこれを」
そう言って差し出されたのは数冊の本。
スポーツ心理学系の本やら、某サッカー選手の自伝などだった。
受け取った本をサイドテーブルの上に置く。

「ところで岬くん、何処へ行こうとしてたのかな?リハビリじゃないよね?」

「中庭でも散歩しようと思って」

「ほんとかな?」

「そんなに信用ないかな?」

「君が無茶をし過ぎることはみんな知ってるから」

「・・・」
返す言葉がない。

「芝崎先生が居ない間、僕が監視役なもんでね」

芝崎先生は学会で留守。
その間無茶をしないようにと、三杉くんが見張り役に抜擢されたそうだ。

何故三杉くんがここにいるかというと・・・。

三杉くんの通学してる医大の実習があり、
ここ、富士スポーツ医学研究所を選んだそうだ。

友人同士ということもあり、はじめは難色を示した先生だけど、
サッカー好きな先生は三杉くんの経緯を知っていて・・・。
そして人柄に、熱意に押されて了承したそうだ。

「僕は心臓病を克服するために色々なリハビリをしてきました。
 サッカーできない期間、ボールすら蹴ることのできない期間を長く過ごしました。
 その時の経験が岬くんのリハビリの糧になればと思ってます」

三杉くんはこうも言ったそうだ。

もっとも僕がこの話を聞かされるのは、芝崎先生が学会から帰ってきてからの事だけど。

リハビリで無理して僕自身が叱られるのはいい。
でもこの状況だと監視役の三杉くんもってことになっちゃうよね。
それは困るわけで・・・。
見透かされてるなぁ。
三杉くんの監視役許可したのも、きっとこの辺も含まれてるなぁ。

「ところで・・・」
僕は持ってきてくれた本に視線をやる。


「この本は僕がリハビリ中に読んだものの一部。
 是非読んでくれたまえ。きっと役に立つから」

「このノートは?」

「ああ、これは、
 僕がベッドの上や病室でしてたリハビリというかトレーニングを書き記したものだ。
 参考になればと思って・・・」

「そっか、わざわざありがとう」


本を一冊とノートを手に持つ。
「中庭で読ませてもらうね」


三杉くんと別れ中庭のベンチに腰掛ける。
しばらく読み耽るものの、やっぱりじっとしていられなくなる。

足がグラウンドに向かう。

グラウンドを見つめ佇む。

走り回り、サッカーをしてる自分を思い描く。
あの試合のあの場面、僕だったらあそこにパスを出す。
あの場面だったら、こう動く。

色々な試合場面を想定して、空想に耽る。




「岬くん、ここに居たんだ?」

三杉くんに声を掛けられ、空想から我に返る。

「自分が試合に出てるところを思い浮かべてたのかい?」

「うん。ノートにも書いてあったし」

「読んでくれたんだね・・・。どう?イメージトレーニングになるだろ?」

「そうだね」

「僕はいつもそうしてた。高校サッカーの時も僕だったら・・・」

「でも虚しいよね?やっぱり自分の出られない試合思い浮かべるのって」
お互いの言葉がかぶってしまった。

「虚しいか・・・」

「あっ、ごめん」

「まあ、わかるけどね」
三杉くんから視線を逸らし下を向く。

「ねえ岬くん?ちょっと書き足したいことあるから、ノート貸してくれないかな?」

本と一緒に抱え込んでいたノートを三杉くんに渡す。
三杉くんはノートに何か書き込んでいく。

そうだったね、三杉くんは高校サッカー3年間、こうして過ごしてたんだね。
ううん。高校の時だけじゃない。
中学の時も、小学生の時も・・・。
そんな三杉くんと、もし高校サッカーで戦えていたら、僕は勝てたのかな?

ふとそんなことを思う。

三杉くんに負けてられないな。
僕だって・・・。


三杉くんは書き終わったノートを閉じ僕を見つめる。

「岬くん?何を考えてるの?」

「ううん。なんでもない・・・。
 三杉くんとは試合で対決してみたいなって」
今度は逸らさず、まっすぐ三杉くんの目を見る。

何かを感じ取ったらしく、
いったん閉じたノートを開き、再び一言付け加えてる。




回想から覚め、場面は現在の病室へと戻る。


本の中に混ざっていたノート。
三杉くんから貰ったリハビリノート。
一番最後のページ・・・。

これ、はじめて見た時ここに何も書いてなかった。
ラストの数ページ何も書いてなかったはず、
あの時書いてくれたことってこれだったんだ。





『岬くん、

 焦る気持ちもわかるよ。自分だけサッカーできず辛い気持ちも。
 僕もそうだったから。
 でもね、僕達はちょっと寄り道を、遠回りをしただけ。
 焦ったり無理してちゃ余計遅れるだけだよ。
 ゆっくりのんびり過ごすのもリハビリのうちだから。
 スタートが人より遅れても、追いつけばいいんだ。
 寄り道したぶん色々なことを経験できる。
 遠回りしたぶん色々なものを見ることができる。
 辛くて厳しい道のりかも知れない。
 でも、何時か必ずこの経験が生きてくる時がくるから・・・。
 この期間は、無駄にはならないはず。
 僕がそうであったように、 きっとキミもそう感じる日がくるはずだから。
 
  
 岬くんなら大丈夫だよね?』


読み終わり、思わず笑みが零れる。

そして、いったん書き終わりノートを閉じた後、
最後の最後にもう一度一言書き加えたのって、

『岬くんなら大丈夫だよね?』
だったんだね?



ありがとう三杉くん。
大丈夫だよ。ちゃんとわかっているから・・・。

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